主 文
1 原審判を取り消す。
2 品川区長は、抗告人らが平成16年1月22日付けでしたC及びD(いずれも平成15年11月28日生)についての出生届を受理せよ。
理 由
第1 抗告の趣旨及び理由
抗告の趣旨は 「原審判を取り消し、東京家庭裁判所へ差し戻す
」との裁判を求めるものであり、抗告の理由は、別紙即時抗告理由書及び意見書5(いずれも省略)記載のとおりである。
第2 事案の概要
1 本件事案の概要
抗告人らは夫婦であるが、抗告人Bの卵子と抗告人Aの精子を用いて実施された体外受精・体外着床術により、アメリカ合衆国ネバダ州在住の米国人女性が同州リノ市において平成15年11月28日に分娩したC及びD(以下「本件子ら」という
)について、抗告人らを父母とする出生届(嫡出子出生届以下「本件出生届」という
)を品川区長にしたところ、同区長が抗告人Bによる分娩の事実が認められないことを理由として、これを受理しなかった(以下「本件各処分」という 。)。
そこで、抗告人らは、本件出生届の受理を命じることを求める申立てをしたが、原審は、抗告人Bによる分娩の事実が認められず、本件子らと抗告人Bとの間に親子関係を認めることができないから本件各処分は適法であるとして、
これらを却下した。本件は、抗告人らがこれを不服として、抗告した事案である。
2 事実関係
本件記録によれば、次の事実が認められる。
( 1)
抗告人A(昭和37年4月12日生)と抗告人B(昭和39年11月3日生)は、平成6年3月21日に婚姻した夫婦である。抗告人Bは、平成12年11月21日、子宮頸部がんの治療のため、子宮摘出及び骨盤内リンパ節剥離手術を受けた。この際、抗告人Bは、将来代理、懐胎により子を得ることも考え
手術後の放射線療法による損傷を防ぐため自己の卵巣を骨盤の外に移して温存した。
( 2)
抗告人らは、抗告人らの遺伝子を受け継ぐ子を得たいと考え、抗告人Aの精子と抗告人Bの卵子を人工的に受精させ、その受精卵を第三者の子宮に着床させて、懐胎、出産させる方法をとることとした。そして、平成14年に、アメリカ合衆国在住の夫婦と代理出産契約を締結し、同国の病院において2度にわたり代理出産の試みがされたが、いずれも成功しなかった。
( 3)
平成15年に入り同国ネバダ州在住の女性Eによる代理出産を試みることとなり、Gセンターにおいて、同年4月30日、抗告人Bの卵巣から採取した卵子に、抗告人Aの精子を顕微受精させ、同年5月3日、その中から質の良い2個の受精卵を、代理母であるEの子宮に移植した。同月6日、抗告人らは、EF夫妻との間で、代理母であるEは、抗告人らが指定し代理母が承認した医師が行う処置を通じて、抗告人らから提供された受精卵を自己の子宮内に受け入れ、受精卵移植が成功した際には出産まで、子供を妊娠すること
生まれた子については抗告人らが法律上の両親であり代理母とその夫は、子に関する保護権や訪問権等いかなる法的請求や権利又は責任を有しないことなどを内容とする有償の代理出産契約を締結した(以下「本件代理出産契約」という
。)。
( 4) 同年11月28日、Eは、ネバダ州Hセンターにおいて、本件子らを出産した。
同年12月1日、ネバダ州ワショー郡管轄ネバダ州第二司法地方裁判所家事部(以下「ネバダ州裁判所」という
)は、抗告人らのEF夫妻を相手方とする申立てに対し、抗告人らが2004年(平成16年)1月あるいはそのころEから生まれる子らの血のつながった、そして法律上の父親と母親と認められること(主文1項
、出生が発生する病院及び州の諸法規の下にお)いて出生証明書を作成する責任を有する関係者、組織ないし機関は、抗告人らを子らの両親とし、出生証明書を準備し発行すること(主文2項
、当該)地域及び州登記官は法律に準拠し上記に則った出生証明書を受理し、記録保管するものとすること(主文3項)などを内容とする「出生証明書及びその他の記録に対する申立人の氏名の記録についての取り決め及び命令」を出した(以下「本件裁判」という
。)。
抗告人らは、本件子らの出生後直ちに養育を開始し、抗告人Aが本件子らの出生届出を行い、平成15年12月31日付けで、本件子らについて、それぞれ、抗告人Aを父と、抗告人Bを母と記載したネバダ州出生証明書が発行されている。
( 5)
抗告人らは、平成16年1月に、本件子らを連れて日本に帰国し、同月22日に、品川区長に対し、本件子らについて、抗告人Aを父と、抗告人Bを母と記載した本件出生届を提出した。
品川区長は、抗告人らに対し、同年5月28日、本件出生届について、抗告人Bによる分娩の事実が認められず、嫡出親子関係が認められないことを理由として、これを受理しない本件各処分をした旨の通知を行った。
本件子らは、抗告人らのもとで監護養育されているが、パスポートはアメリカ国籍で発行されており、保護者同居人が日本人であるという在留資格で生活している。
3 抗告人らの主張
抗告人らの主張は、抗告理由とする当審における補足的主張を付け加えるほか、原審判「理由」の「 当裁判所の判断)第2の1
申立人らの主張」記載のとおりであるから、これを引用する。(抗告人らの当審における補足的主張)
( 1) 民事訴訟法118条の規定の適用ないし類推適用
ア
抗告人らの申立てに対するネバダ州裁判所による本件裁判の主文1項は、本件代理出産契約がネバダ州修正法に基づき有効に成立し、かつこれに基づき抗告人らと本件子らとの間に法的な親子関係があることを確認するものであり、この裁判の効力は当該裁判の当事者だけでなく、第三者にも及び対世効を有するものである。
イ
同裁判は外国裁判所の確定判決として、わが国の人事訴訟における確定判決や家事審判法23条による審判と同視し得るものであり、しかもその内容及び手続が日本における公序良俗に反しない。
ウ
したがって、本件裁判の主文は、民事訴訟法118条の規定の適用ないし類推適用により、わが国でも外国裁判所の確定判決としてその効力が承認される結果、本件子らは、抗告人らの子らであると確認されるべきであり、結局、本件出生届は受理すべきものである。
( 2)
民法は親子関係について極めて強固な血縁主義を採用していることが明らかであるから、法律上の母子関係については従前どおり分娩者を母とするのが相当であるとする原審判は誤っている、原審の判断は解釈論でなく、あたかも立法機関による一律的な法規範を定立することを意図した立法論である。
( 3) 原審判は本件子らの福祉を全く考慮しないものである。
( 4)
抗告人らが自己の遺伝子を受け継ぐ子を持つ権利、すなわち、家族の形成・維持に係わる事柄についての自己決定権又は遺伝的素質を子孫に伝えあるいは妊娠・出産といったリプロダクションにかかわる事柄についての自己決定権は幸福追求権として憲法13条後段により保障されているから、本件各処分は、幸福追求権を定める憲法13条後段に違反する。
( 5) 品川区長は親子関係の存否の判断につき、父子関係は血縁関係の有無により、母子関係は分娩の事実により判断するとして、性別によりその取扱い、 、
、を異にしており また 抗告人Bは子宮頸部ガンにより子宮を摘出しており
自ら子を懐胎・出産することができない身体的特徴を有する女性であり、このような地位は社会的身分に該当するから、本件各処分は性別及び社会的身分による差別に該当するもので、憲法14条1項に違反する。
4 品川区長の意見
品川区長の意見は、抗告人らの当審における補足的主張に対する意見を付け加えるほか、原審判「理由」の「 当裁判所の判断)第2の2
品川区長の意見記載のとおりであるから、これを引用する。
(抗告人らの当審における補足的主張に対する意見)
( 1) 民事訴訟法118条の規定の適用ないし類推適用について
ア
本件裁判の主文はネバダ州修正法の定めるところによるものであって承知していない。アメリカ合衆国の州においては、代理母契約について裁判所の事前承認手続を経ることによって有効とする方式を採用している州(バージニア州等)が見られ、裁判所によって契約が承認されれば、生まれた子は依頼者夫婦の子とするものとされているようであるが、ネバダ州においてかかる方式を採用しているかどうか承知しておらず、本件裁判が上記事前承認手続を指すものか明らかでない。
イ
ネバダ州修正法が代理母契約の裁判所の事前承認手続のような規定を定めていた場合でも、本件裁判でいう事前承認が民事訴訟法118条所定の外国裁判所の確定判決に当たるかどうかについては明らかでなく、本件裁判の実質によるものであって一概にはいえない。
ウ
仮に本件裁判が外国裁判所の確定判決にあたるとしても、抗告人Bと本件子らとの間に法律上の母子関係を認める部分については、わが国の公序良俗に反するため、民事訴訟法118条3号の要件を欠き承認されないと解される。
その理由については、上記原審判における品川区長の意見、すなわち医学会での生殖補助医療に関する検討結果、法整備に関する検討結果、医学会における代理懐胎の実施についての自主規制、代理懐胎に関する母子関係決定についての立法の検討状況等に記載のとおりである。
( 2) 抗告人ら上記主張( 2 )について
原審判は、母子関係の成立を決定する基準については、単に血縁関係という要素だけでなく、諸般の事情を考慮して検討しなければならないとしたうえ、基準の客観性、明確性及び自然懐胎による母子関係との基準の共通性、子を胎内で育てる女性の心理並びにわが国における議論の状況及び諸外国の法制度の状況等を考慮すると、現段階における民法の解釈としては、分娩者をもって母と解するほかないと判断した。その判断は正当であり、抗告人らの上記主張は理由がない。
( 3) 抗告人ら上記主張( 4)について
抗告人らの主張する各自己決定権が、憲法13条後段によって保障されているかどうか自体が疑わしいうえ、仮に保障されているとしても具体的な内容が不明瞭であって、その権利のどのような側面が本件各処分によって具体的に侵害されているか明らかでなく、根拠に乏しい。また、前提として法律上の母子関係が認められていない点を問題としているとしても、養子制度や特別養子制度を利用することによって、法律上の母子関係が認められるため、法制度上侵害されているとは解されない。抗告人らの上記主張は理由がない。
( 4) 抗告人ら上記主張( 5)について
子の懐胎及び出産という基準がすべての女性に対して平等に適用されるものであることに加え、子を懐胎及び出産した女性と子との間に母子関係が発生すると解するのが合理的であることからすれば、その主張は理由がない。
第3 当裁判所の判断
1 本件では、本件裁判が存在するので、まず、本件裁判につき民事訴訟法118条の規定の適用ないし類推適用がされるかについて検討する。
(1 ) 本件裁判の効力について
ア 代理出産 代理母 契約について ネバダ州修正法126
045条は代理出産契約が有効となるためには、1項で(a)親子関係に関する規定、(b)事情が変更した場合の子どもの監護権の帰属に関する規定、(c)当事者それぞれの責任と義務に関する規定が含まれていなければならないこと、2項で、同要件を満たす代理出産契約において本来の両親と認定された者はあらゆる点から法的に実の両親として取り扱われること、また3項で契約書に明記されている子どもの出産に関連した医療費及び生活費以外に金銭あるいは価値あるものを代理母に支払うこと又は申し出ることは違法であることを規定している。
イ 前認定の事実に本件記録によれば、次の事実が認められる。
ネバダ州修正法126.041条は、親子関係の形成につき、実母との間では、子を出生したことを証明することや126章の規定等に基づき形成することができること(1項
、実父との間では、126章の規定等に)基づき形成することができること(2項)が規定されており、126章には、代理出産契約を定めた126.045条や父子関係確定の裁判手続に関する規定とこれを準用する母子関係確定の裁判手続に関する規定等が置かれている。
本件代理出産契約は、上記ネバダ修正法の規定に従って締結され、上記規定の要件をすべて満たしているものであるところ、ネバダ州裁判所は、抗告人らとEF夫妻との間において、親子関係確定の申立書に記載されている事項が真実であると認めていること及びEF夫妻は本件子らを抗告人らの子と確定することを望んでいることを確認し、本件代理出産契約を含む関係書類を精査した後に、抗告人らが、すべての局面において、本件子らの血縁上及び法律上の父母であることを確認するとともに
(主文1項)、子らが出生する病院及び出生証明書を作成する責任を有する関係機関は、抗告人らを子の両親とする 出生証明書を準備し 発行することを命じ(
主文2項 )、当該地域及び州登記官は、法律に準拠し上記に則った出生証明書を受理し、記録保管するものとすることを命じた(主文3項 )。
アメリカ合衆国では、ネバダ州だけでなく、カリフォルニア州やマサチャーセッツ州等においても、本件代理出産契約と同様の事案において同様に命じる裁判類型がある。なお、ネバダ州修正法では、アメリカ合衆国の統一州法委員全国会議が起案した統一親子法とは異なり、代理出産契約について裁判所による事前の認可を必要とはせず、また、代理出産契約に基づく親子関係確定のための特別手続は設けられていない。本件裁判は、ネバダ州修正法上の父子関係確定の裁判手続と母子関係確定の裁判手続に基づきなされたものであるところ、父子関係確定の裁判の裁判事項と効力に関するネバダ州修正法126.161条では、親子関係確定の裁判は、すべての局面において決定的なものであること(1項
、親子関係確定の裁)判が従前の出生証明書の内容と異なるときは、主文において新たな出生証
明書を作成することを命ずべきこと(2項)等が規定されている。そうすると、本件裁判主文の効力は、当事者である抗告人ら及びEF夫妻だけでなく、出生証明書の発行権限者及び出生証明書の受理権限者を含む第三者に対しても及んで対世効を有するものと解される。
ウ
もっとも、わが国の親子関係事件は、親と子が対立当事者となるが、本件裁判の当事者は、抗告人ら及びEF夫妻であり、本件子らは当事者とされていない。しかし、ネバダ州裁判所は、上記のとおり、代理出産契約の成立及び内容並びに事実関係について慎重に審理しており、本件子らの福祉並びに裁判の公正が担保されているうえ、本件裁判には、本件子ら以外の利害関係者全員、すなわち、抗告人ら及びEF夫妻が当事者として関与しており、しかも、本件子らの法定代理人はこれらの者のいずれかであることからすれば、事実上、本件子らも裁判手続きに関与しているとも解されるので、特にこの点は問題とならないと解される。
( 2) 本件裁判は、民事訴訟法118条にいう外国裁判所の確定判決といえるか。
ア 民事訴訟法118条所定の外国裁判所の確定判決とは
外国の裁判所がその裁判の名称、手続、形式の如何を問わず、私法上の法律関係について当事者双方の手続的保障の下に終局的にした裁判をいうものであり
決定命令等と称されるものであっても、その性質を有するものは同条にいう外国裁判所の判決に当たるものと解するのが相当である
(最高裁判所平成10年4月28日第三小法廷判決・民集52巻3号853頁参照)。
イ 本件裁判は、上記(
1)のとおり、親子関係の確定を内容とし、かつ、対世的効力を有するものであるから、わが国の裁判類型としては、人事訴訟(人事訴訟法2条)の判決に類似する又は家事審判法23条の審判(合意に相当する審判
)に類似するといえるのであり しかも確定しているから本件裁判は、外国裁判所の確定判決に該当するというべきである。
( 3) 本件裁判は、民事訴訟法118条3号にいう公序良俗に反しないとの要件を具備しているか。
ア 公序良俗に反しないとは
その判決の承認によりわが国での効力を認め法秩序に組み込むことでわが国の公序良俗(いわゆる国際私法上の公序であり、渉外性を考慮してもなお譲ることのできない内国の基本的価値、秩序を意味する
)に混乱をもたらすことがないことを意味すると解されている。
イ
このような公序良俗を検討する前提として、まず、本件裁判が民事訴訟法118条所定の外国裁判所の確定判決に該当しないとした場合における法律解釈等を検討する。
前記第2の2のとおりの事実関係によれば本件は渉外的要素があるので、準拠法が問題となるところ、本件については抗告人ら等との間の嫡出性が問題となることから
法例17条1項が指定する法律が準拠法となるそこで、抗告人らが本件子らの父母であるかどうかは、抗告人らの本国法である日本の法律が準拠法となる。
母子関係の成立に関するわが国民法の解釈論については、当裁判所も原審と同様の考え方をとるものであり、原審判「理由」の「
(当裁判所の判断)第3」の「2
母子関係の成立に関する我が国民法の解釈」及び「3その他の申立人らの主張について」記載のとおりであるから、これを引用する。そうすると、民法の解釈上、抗告人らを本件子らの法律上の親ということができない。
次に、本件子らがEF夫妻の子であるかどうかを検討すると、この場合の準拠法は、EF夫妻の本国法であるネバダ州修正法となり(法例28条3項
、同法上、代理出産契約は有効とされ、これによれば、本件子らが)EF夫妻の子であることが否定される。このように本件子らには、法律上の親が存在しないこととなる。これを避けるためには、法例33条に基づきネバダ修正法の適用を排除し、日本の民法に従いEF夫妻の子であるとすることが考えられるが、当然のことながらEF夫妻の居住するネバダ州では抗告人らが本件子らの法律上の親とされており、本件子らは、このよ
うな各国の法制度の狭間に立たされて、法律上の親のない状態を甘受しなければならないこととなる。
ウ
本件では、前説示のとおり、本件裁判が民事訴訟法118条所定の外国裁判所の確定判決に該当するので、前提状況を踏まえて、本件裁判が公序良俗に反するかどうかを検討することとする。この場合において、本件裁判の承認の要件としての公序良俗を判断するについてはあくまで、本件事案について、以下のとおり個別的かつ具体的内容に即した検討をしたうえで、本件裁判の効力を承認することが実質的に公序良俗に反するかどうかを判断すべきである。
1
わが国民法等の法制度は、生殖補助医療技術が存在せず、自然懐胎のみの時代に制定された法制度であるが、現在は、生殖補助医療技術が発達したことにより、自然懐胎以外に人為的な操作により懐胎及び子の出生が実現されるようになっている。その法制度制定時に、自然懐胎以外の方法による懐胎及び子の出生が想定されていなかったことをもって、人為的な操作による懐胎又は出生のすべてが、わが国の法秩序の中に受け容れられないとする理由にはならないというべきである。現に、その中でも、人工授精による懐胎については、当事者の意思を十分尊重して確認する等の条件の下で、現行法制度の中で容認されていることからすると、民法上、代理出産契約があるからといってその契約に基づき親子関係を確定することはないとしても、外国でなされた他の人為的な操作による懐胎又は出生について、外国の裁判所がした親子関係確定の裁判については、厳格な要件を踏まえた上であれば十分受け容れる余地はあるといえる。
2 本件子らは、抗告人Bの卵子と抗告人Aの精子により、出生した子らであり、抗告人らと本件子らとは血縁関係を有する。
3
本件代理出産契約に至ったのは、抗告人Bの子宮頸部がんにより子宮摘出及び骨盤内リンパ節剥離手術を受けて自ら懐胎により子を得ること、が不可能となったため
抗告人らの遺伝子を受け継ぐ子を得るためにはその方法以外にはなかったことによる。
4
他方、本件記録によれば、Eが代理出産を申し出たのは、ボランティア精神に基づくものであり、その動機・目的において不当な要素をうかがうことができないし、本件代理出産契約は抗告人らがEに手数料を支払う有償契約であるが、その手数料は、Eによって提供された働き及びこれに関する経費に関する最低限の支払(ネバダ州修正法において認められているもの)であり、子の対価でないことが認められる。また、契約の内容についても、それ自体からして、妊娠及び出産のいかなる場面においても、Eの生命及び身体の安全を最優先とし、Eが胎児を中絶する権利及び中絶しない権利を有しこれに反するなんらの約束も強制力を持たないこととされ、Eの尊厳を侵害する要素を見出すことはできないものである。
5
本件では、代理母夫妻は本件子らと親子関係にあること及び養育することを望んでおらず、また本件裁判により抗告人らが血縁上も法律上も親とされているため、本件子らは、法律的に受け容れるところがない状態が続くことになる。抗告人らは、本件子らを出生直後から養育しているが、今後ももとより実子として養育することを強く望んでいる。したがって、代理母を認めることが本件子らの福祉を害するおそれはなく、むしろ、本件子らの福祉にとっては、わが国において抗告人らを法律的な親と認めることを優先すべき状況となっており、抗告人らに養育されることがもっともその福祉に適うというべきである。
6
ところで、厚生科学審議会生殖補助医療部会が、代理懐胎を一般的に禁止する結論を示しているが、その理由として挙げている子らの福祉の優先、人を専ら生殖の手段として扱うことの禁止、安全性、優生思想の排除、商業主義の排除、人間の尊厳の六原則について、本件事案の場合はいずれにも当てはまらないというべきである。もとより、現在、わが国では代理母契約について
明らかにこれを禁止する規定は存しないしわが国では代理懐胎を否定するだけの社会通念が確立されているとまではいえない。
7
本件記録によれば、法制審議会生殖補助医療関連親子法制部会において、外国で代理懐胎が行われ、依頼者の夫婦が実親となる決定がされた場合、代理懐胎契約はわが国の公序良俗に反するため、その決定の効力はわが国では認められないとする点に異論がなかったことが認められ、当該議論における公序良俗とは、法例33条又は民事訴訟法118条3号にいう公序良俗を指すものと解される(日本の民法の解釈上、代理懐胎契約が締結されたとしても、その契約によって法的親子関係を確定することができず、何ら法的な効力はないことから、法的親子関係の確定
の観点からは民法90条の公序良俗が問題となることはない。)。そして、このように、外国でなされた代理懐胎契約がわが国の公序良俗に反するとしても、前認定のとおり、本件裁判は、本件代理出産契約のみに依拠して親子関係を確定したのではなく、本件子らが抗告人らと血縁上の親子関係にあるとの事実及びEF夫妻も本件子らを抗告人らの子と確定することを望んでいて関係者の間に本件子らの親子関係について争いがないことも参酌して、本件子らを抗告人らの子と確定したのであり、前記議論があるからといって、本件裁判が公序良俗に反するものではない。
8
さらに、本件のような生命倫理に関する問題につき、わが国の民法の解釈では抗告人らが本件子らの法律上の親とされないにもかかわらず、外国の裁判に基づき抗告人らを本件子らの法律上の親とすることに違和感があることは否定することができない。しかしながら、身分関係に関する外国裁判の承認については、かつては国際私法学者を中心に、民事訴訟法118条(旧民事訴訟法では200条)に定める要件のほか、法例が指定する準拠法上の要件も満たすべきであるとの議論がなされたが、下級審ながら多く裁判例や戸籍実務(昭和51年1月14日民2第289号法務省民事局長通達参照)では、身分関係に関する外国の裁判についても民事訴訟法118条に定める要件が満たされれば、これを承認するものとされており、この考え方は国際的な裁判秩序の安定に寄与するものであって、本件事案においてのみこれに従わない理由を見いだすことができない。そうすると、本件においても、外国裁判の承認の構造上、法例17条が指定する日本の民法を適用する余地はなく、上記違和感があるからといって、本件裁判が公序良俗に反するということができない。
エ 以上のとおり、本件のような具体的事情のもとにおいて、本件裁判を承認することは実質的に公序良俗に反しないと認めることができる。
オ 手続的公序について
本件代理出産契約及び本件裁判は、本件子らの出生前の契約に関する裁判で、わが国の裁判体系にはないものであるため、手続的公序の問題が起こりうる可能性もある。
しかし、代理出産により生まれる子の身分関係(親子関係)を早期に確定させる必要があるため、子が出生する前に裁判所の命令(実の両親の確定、出生証明書等の発行)を得なければならないのは、子の福祉に資するからにほかならない。さらに、本件裁判については、わが国の裁判類型にないとしても、上記で検討したように実質が公序良俗に反しないのであるから、この限りにおいては承認しうるものと解される。
( 4) 本件裁判は、民事訴訟法118条1号の要件を具備しているか。
間接的国際裁判管轄とは、日本法上外国裁判所が、国際裁判管轄(権)を有することをいい、これについては、わが国の承認管轄の規則に照らして、判決国(判決をした裁判所の所属する国)が管轄を有することが要求され、かつそれで足りると解される。
前認定したところによれば、本件においては、本件代理出産契約の一方当事者であるEF夫妻がネバダ州に住み、その普通裁判籍はネバダ州にあるから、アメリカ合衆国が管轄権を有することは明らかであり、また、抗告人らが本件のネバダ州裁判所に申し立てている点や、本件子らがネバダ州において出生している点からも、本件裁判につき、間接的国際裁判管轄については問題とならない。
2
以上で検討したとおり、本件子らの場合は、上記各事情の条件のもとにおいては、本件裁判は外国裁判所の裁判に該当し、民事訴訟法118条所定の要件を満たすものであるから、同条の適用ないし類推適用により、承認の効果が生じることになり、承認される結果、本件子らは、抗告人らの子であると確認され、本件出生届出も受理されるべきである。
第4 結論
よって、抗告人らの本件抗告は理由があるから、原審判を取り消し、品川区長に抗告人らが平成16年1月22日付けでした本件子らについての出生届の受理を命じることとして、主文のとおり決定する。
平成18年9月29日
東京高等裁判所第17民事部
裁判長裁判官 南 敏 文
裁判官 安 藤 裕 子
裁判官 生 野 考 司
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