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出典 
最高裁HP
番号  最高裁判所 第二小法廷判決(破棄・自判)=平成18年(許)第47号
件名 
市町村長の処分に対する不服申立て却下審判に対する抗告審の変更決定に対する許可抗告事件
経過 
1審東京家裁 平成17年(家)第844号  2審東京高裁 h18 09/29 平成18年(ラ)第27号      


概要 
代理出産の米国裁判所の判断が民法の母子関係の解釈や昭和37年最判から公序に反する

 

最高裁H19 03/23決定
注意
概要・要旨は saini-office 独自のものです。
要旨
●判断
 外国裁判所の判決が民訴法118条により我が国においてその効力を認められるためには、判決の内容が我が国における公の秩序又は善良の風俗に反しないことが要件とされているところ、外国裁判所の判決が我が国の採用していない制度に基づく内容を含むからといって、その一事をもって直ちに上記の要件を満たさないということはできないが、それが我が国の法秩序の基本原則ないし基本理念と相いれないものと認められる場合には、その外国判決は、同法条にいう公の秩序に反するというべきである。

 実親子関係は、身分関係の中でも最も基本的なものであり、様々な社会生活上の関係における基礎となるものであって、単に私人間の問題にとどまらず、公益に深くかかわる事柄であり、子の福祉にも重大な影響を及ぼすものであるから、どのような者の間に実親子関係の成立を認めるかは、その国における身分法秩序の根幹をなす基本原則ないし基本理念にかかわるものであり、実親子関係を定める基準は一義的に明確なものでなければならず、かつ、実親子関係の存否はその基準によって一律に決せられるべきものである。したがって、我が国の身分法秩序を定めた民法は、同法に定める場合に限って実親子関係を認め、それ以外の場合は実親子関係の成立を認めない趣旨であると解すべきである。以上からすれば、民法が実親子関係を認めていない者の間にその成立を認める内容の外国裁判所の裁判は、我が国の法秩序の基本原則ないし基本理念と相いれないものであり、民訴法118条3号にいう公の秩序に反するといわなければならない。このことは、立法政策としては現行民法の定める場合以外にも実親子関係の成立を認める余地があるとしても変わるものではない。

  我が国の民法上、母とその嫡出子との間の母子関係の成立について直接明記した規定はないが、民法は、懐胎し出産した女性が出生した子の母であり、母子関係は懐胎、出産という客観的な事実により当然に成立することを前提とした規定を設けている(民法772条1項参照)。また、母とその非嫡出子との間の母子関係についても、同様に、母子関係は出産という客観的な事実により当然に成立すると解されてきた(最高裁昭和35年(オ)第1189号同37年4月27日第二小法廷判決・民集16巻7号1247頁参照)。

 民法の実親子に関する現行法制は、血縁上の親子関係を基礎に置くものであるが、民法が、出産という事実により当然に法的な母子関係が成立するものとしているのは、その制定当時においては懐胎し出産した女性は遺伝的にも例外なく出生した子とのつながりがあるという事情が存在し、その上で出産という客観的かつ外形上明らかな事実をとらえて母子関係の成立を認めることにしたものであり、かつ、出産と同時に出生した子と子を出産した女性との間に母子関係を早期に一義的に確定させることが子の福祉にかなうということもその理由となっていたものと解される。

 民法の母子関係の成立に関する定めや上記判例は、民法の制定時期や判決の言渡しの時期からみると、女性が自らの卵子により懐胎し出産することが当然の前提となっていることが明らかであるが、現在では、生殖補助医療技術を用いた人工生殖は、自然生殖の過程の一部を代替するものにとどまらず、およそ自然生殖では不可能な懐胎も可能にするまでになっており、女性が自己以外の女性の卵子を用いた生殖補助医療により子を懐胎し出産することも可能になっている。そこで、子を懐胎し出産した女性とその子に係る卵子を提供した女性とが異なる場合についても、現行民法の解釈として、出生した子とその子を懐胎し出産した女性との間に出産により当然に母子関係が成立することとなるのかが問題となる。この点について検討すると、民法には、出生した子を懐胎、出産していない女性をもってその子の母とすべき趣旨をうかがわせる規定は見当たらず、このような場合における法律関係を定める規定がないことは、同法制定当時そのような事態が想定されなかったことによるものではあるが、前記のとおり実親子関係が公益及び子の福祉に深くかかわるものであり、一義的に明確な基準によって一律に決せられるべきであることにかんがみると、現行民法の解釈としては、出生した子を懐胎し出産した女性をその子の母と解さざるを得ず、その子を懐胎、出産していない女性との間には、その女性が卵子を提供した場合であっても、母子関係の成立を認めることはできない。

 本件裁判は、我が国における身分法秩序を定めた民法が実親子関係の成立を認めていない者の間にその成立を認める内容のものであって、現在の我が国の身分法秩序の基本原則ないし基本理念と相いれないものといわざるを得ず、民訴法118条3号にいう公の秩序に反することになるので、我が国においてその効力を有しないものといわなければならない。

 そして、相手方らと本件子らとの間の嫡出親子関係の成立については、相手方らの本国法である日本法が準拠法となるところ(法の適用に関する通則法28条1項)、日本民法の解釈上、相手方X2 と本件子らとの間には母子関係は認められず、相手方らと本件子らとの間に嫡出親子関係があるとはいえない。
 
 
全文
主 文

 原決定を破棄し、原々決定に対する相手方らの抗告を棄却する。
 当審における抗告費用は相手方らの負担とする。


理 由

 抗告代理人都築政則ほかの抗告理由について
1 本件は、日本人夫婦である相手方らが、相手方X1 の精子と同X2 の卵子を用いた生殖補助医療により米国ネバダ州在住の米国人女性が懐胎し出産した双子の子ら(以下「本件子ら」という。)について、抗告人に対し、相手方らを父母とする嫡出子としての出生届(以下「本件出生届」という。)を提出したところ、抗告人は、相手方X2 による分娩(出産)の事実が認められず、相手方らと本件子らとの間に嫡出親子関係が認められないことを理由として本件出生届を受理しない旨の処分をし、これに対し、相手方らが、戸籍法118条に基づき、本件出生届の受理を命ずることを申し立てた事案である(以下、この申立てを「本件申立て」という。)。
2 記録によれば、本件の経緯の概要は、次のとおりである。
(1) 相手方X1 と同X 2は、平成6年○月○日に婚姻した夫婦である。
(2) 相手方X 2は、平成12年○月○日、子宮頸部がんの治療のため、子宮摘出及び骨盤内リンパ節剥離手術を受けた。この際、相手方X 2は、将来自己の卵子を用いた生殖補助医療により他の女性に子を懐胎し出産してもらう、いわゆる代理出産の方法により相手方らの遺伝子を受け継ぐ子を得ることも考え、手術後の放射線療法による損傷を避けるため、自己の卵巣を骨盤の外に移して温存した。
 相手方らは、平成14年に、米国在住の夫婦との間で代理出産契約を締結し、同国の病院において2度にわたり代理出産を試みたが、いずれも成功しなかった。
(3) 相手方らは、平成15年に米国ネバダ州在住の女性A(以下「A」という。)による代理出産を試みることとなり、Cセンターにおいて、同年○月○日、相手方X 2の卵巣から採取した卵子に、相手方X 1の精子を人工的に受精させ、同年○月○日、その中から2個の受精卵を、Aの子宮に移植した。
 同年5月6日、相手方らは、A及びその夫であるB夫妻(以下「AB夫妻」という。)との間で、Aは、相手方らが指定しAが承認した医師が行う処置を通じて、相手方らから提供された受精卵を自己の子宮内に受け入れ、受精卵移植が成功した際には出産まで子供を妊娠すること、生まれた子については相手方らが法律上の父母であり、AB夫妻は、子に関する保護権や訪問権等いかなる法的権利又は責任も有しないことなどを内容とする有償の代理出産契約(以下「本件代理出産契約」という。)を締結した。
(4) 同年11月○日、Aは、ネバダ州a市Dセンターにおいて、双子の子である本件子らを出産した。
(5) ネバダ州修正法126章45条は、婚姻関係にある夫婦は代理出産契約を締結することができ、この契約には、親子関係に関する規定、事情が変更した場合の子の監護権の帰属に関する規定、当事者それぞれの責任と義務に関する規定が含まれていなければならないこと(1項)、同要件を満たす代理出産契約において親と定められた者は法的にあらゆる点で実親として取り扱われること(2項)、契約書に明記されている子の出産に関連した医療費及び生活費以外の金員等を代理出産する女性に支払うこと又はその申出をすることは違法であること(3項)を規定しており、同章には、親子関係確定のための裁判手続に関する諸規定が置かれている。
 同章161条は、親子関係確定の裁判は、あらゆる局面において決定的なものであること(1項)、親子関係確定の裁判が従前の出生証明書の内容と異なるときは、新たな出生証明書の作成を命ずべきこと(2項)を規定している。
(6) 相手方らは、同年11月下旬、ネバダ州ワショー郡管轄ネバダ州第二司法地方裁判所家事部(以下「ネバダ州裁判所」という。)に対し親子関係確定の申立てをした。同裁判所は、相手方ら及びAB夫妻が親子関係確定の申立書に記載されている事項を真実であると認めていること及びAB夫妻が本件子らを相手方らの子として確定することを望んでいることを確認し、本件代理出産契約を含む関係書類を精査した後、同年12月1日、相手方らが2004年(平成16年)1月あるいはそのころAから生まれる子ら(本件子ら)の血縁上及び法律上の実父母であることを確認するとともに(主文1項)、子らが出生する病院及び出生証明書を作成する責任を有する関係機関に、相手方らを子らの父母とする出生証明書を準備し発行することを命じ(主文2項)、関係する州及び地域の登記官に、法律に準拠し上記にのっとった出生証明書を受理し、記録保管することを命ずる(主文3項)内容の「出生証明書及びその他の記録に対する申立人らの氏名の記録についての取決め及び命令」を出した(以下「本件裁判」という。)。
(7) 相手方らは、本件子らの出生後直ちに養育を開始した。ネバダ州は、平成15年12月31日付けで、本件子らについて、相手方X1 を父、相手方X2 を母と記載した出生証明書を発行した。
(8) 相手方らは、平成16年1月、本件子らを連れて日本に帰国し、同月22日、抗告人に対し、本件子らについて、相手方X1 を父、相手方X 2を母と記載した嫡出子としての出生届(本件出生届)を提出した。
 抗告人は、相手方らに対し、同年5月28日、相手方X2 による出産の事実が認められず、相手方らと本件子らとの間に嫡出親子関係が認められないことを理由として、本件出生届を受理しない旨の処分をしたことを通知した。
3 原々審は、本件申立てを却下したが、原審は、要旨次のとおり説示して、原々決定を取り消し、本件出生届の受理を命じた。
(1) 民訴法118条所定の外国裁判所の確定判決とは、外国の裁判所が、その裁判の名称、手続、形式のいかんを問わず、私法上の法律関係について当事者双方の手続的保障の下に終局的にした裁判をいうものと解される(最高裁平成6年(オ)第1838号同10年4月28日第三小法廷判決・民集52巻3号853頁)。ネバダ州裁判所による相手方らを法律上の実父母と確認する旨の本件裁判は、親子関係の確定を内容とし、我が国の裁判類型としては、人事訴訟の判決又は家事審判法23条の審判に類似するものであり、外国裁判所の確定判決に該当する。
(2) 民訴法118条3号の要件について
 本件裁判が民訴法118条による効力を有しないとすると、相手方らと本件子らとの嫡出親子関係については、相手方らの本国法である日本法が準拠法となるところ、我が国の民法の解釈上、法律上の母子関係については子を出産した女性が母であると解されるから、相手方らは法律上の親ではないことになる。一方、本件子らとAB夫妻との親子関係については、AB夫妻の本国法であるネバダ州修正法が準拠法となるところ、同法上、本件代理出産契約は有効とされ、相手方らが法律上の親であって、AB夫妻は本件子らの法律上の親ではないことになる。本件子らは、このような両国の法制度のはざまに立たされて、法律上の親のない状態を甘受しなければならないこととなる。
 民訴法118条3号所定の「判決の内容が日本における公の秩序又は善良の風俗に反しないこと」とは、外国裁判所の判決の効力を我が国で認め、法秩序に組み込むことにより我が国の公序良俗(渉外性を考慮してもなお譲ることのできない我が国の基本的価値、秩序)に混乱をもたらすことがないことを意味するが、これを判断するについては、上記の状況を踏まえ、本件事案につき、個別的かつ具体的内容に即した検討をした上で、本件裁判の効力を承認することが実質的に公序良俗に反するかどうかを判断すべきであるところ、以下のとおり、本件裁判の効力を承認することは実質的に公序良俗に反しないというべきである。
ア 我が国の民法等の法制度は、生殖補助医療技術が存在せず、自然懐胎のみの時代に制定されたものであるが、法制定当時に想定されていなかったことをもって、人為的な操作による懐胎又は出生のすべてが、我が国の法秩序の中に受け入れられないとする理由にはならず、民法上、代理出産契約に基づいて親子関係が確定されることはないとしても、外国でされた人為的な操作による懐胎又は出生に関し、外国の裁判所がした親子関係確定の裁判については、厳格な要件を踏まえた上で受け入れる余地はある。
イ 本件子らは、相手方X 2の卵子と相手方X1 の精子により出生した子らであり、相手方らと本件子らとは血縁関係を有する。
ウ 本件代理出産契約に至ったのは、相手方X 2の子宮頸部がんによる子宮摘出手術等の結果、自ら懐胎により子を得ることが不可能となったため、相手方らの遺伝子を受け継ぐ子を得るためには、その方法以外はなかったことによる。
エ 他方、Aが代理出産を申し出たのは、ボランティア精神に基づくものであり、その動機・目的において不当な要素をうかがうことができず、本件代理出産契約は相手方らがAに手数料を支払う有償契約であるが、その手数料は、Aによって提供された働き及びこれに関する経費に関する最低限の支払(ネバダ州修正法において認められているもの)であり、子の対価ではない。契約の内容についても、妊娠及び出産のいかなる場面においても、Aの生命及び身体の安全を最優先とし、Aが胎児を中絶する権利及び中絶しない権利を有しこれに反する何らの約束も強制力を持たないこととされ、Aの尊厳を侵害する要素を見いだすことはできない。
オ 本件では、AB夫妻は、本件子らと親子関係にあることもこれを養育することも望んでおらず、他方、相手方らは、本件子らを出生直後から養育し、今後も実子として養育することを強く望んでいるのであって、本件子らにとって、相手方らを法律的な親と認めることがその福祉を害するおそれはなく、むしろ、相手方らに養育されることがもっともその福祉にかなう。
カ 厚生科学審議会生殖補助医療部会は、代理出産を一般的に禁止する結論を示しているが、本件代理出産は、その禁止の理由として挙げられている子らの福祉の優先、人を専ら生殖の手段として扱うことの禁止、安全性、優生思想の排除、商業主義の排除、人間の尊厳の6原則に反することはない。現在、我が国では代理出産契約について明らかにこれを禁止する規定は存せず、我が国では代理出産を否定するだけの社会通念が確立されているとまではいえない。
キ 法制審議会生殖補助医療関連親子法制部会における議論では、外国で代理出産が行われ、依頼者の夫婦が実親となる決定がされた場合、代理出産契約は我が国の公序良俗に反し、その決定の効力は我が国では認められないとする点に異論がなかったが、本件裁判は、本件代理出産契約のみに依拠して親子関係を確定したのではなく、本件子らが相手方らと血縁上の親子関係にあるとの事実及びAB夫妻も本件子らを相手方らの子と確定することを望んでおり関係者の間に本件子らの親子関係について争いがないことも参酌して、本件子らを相手方らの子と確定したのであり、本件裁判が公序良俗に反するものではない。
ク 本件のような生命倫理に関する問題につき、我が国の民法の解釈では相手方らが本件子らの法律上の親とされないにもかかわらず、外国の裁判の効力を承認する結果として、我が国において相手方らを本件子らの法律上の親とすることに違和感があることは否定できない。しかしながら、身分関係に関する外国裁判の承認については、多くの下級審裁判例や戸籍実務(昭和51年1月14日民二第280号法務省民事局長通達参照)においては、身分関係に関する外国の裁判についても、準拠法上の要件は満たす必要はなく、民訴法118条に定める要件が満たされれば、これを承認するものとされており、この考え方は国際的な裁判秩序の安定に寄与するものであって、本件事案においてのみこれに従わない理由は見いだせない。
(3) よって、本件裁判は民訴法118条の適用ないし類推適用により効力を有し、本件子らは相手方らの嫡出子ということになるから、本件出生届は受理されるべきである。
4 しかしながら、原審の上記判断のうち(2)及び(3)は是認することができない。その理由は、次のとおりである。
(1) 外国裁判所の判決が民訴法118条により我が国においてその効力を認められるためには、判決の内容が我が国における公の秩序又は善良の風俗に反しないことが要件とされているところ、外国裁判所の判決が我が国の採用していない制度に基づく内容を含むからといって、その一事をもって直ちに上記の要件を満たさないということはできないが、それが我が国の法秩序の基本原則ないし基本理念と相いれないものと認められる場合には、その外国判決は、同法条にいう公の秩序に反するというべきである(最高裁平成5年(オ)第1762号同9年7月11日第二小法廷判決・民集51巻6号2573頁参照)。
 実親子関係は、身分関係の中でも最も基本的なものであり、様々な社会生活上の関係における基礎となるものであって、単に私人間の問題にとどまらず、公益に深くかかわる事柄であり、子の福祉にも重大な影響を及ぼすものであるから、どのような者の間に実親子関係の成立を認めるかは、その国における身分法秩序の根幹をなす基本原則ないし基本理念にかかわるものであり、実親子関係を定める基準は一義的に明確なものでなければならず、かつ、実親子関係の存否はその基準によって一律に決せられるべきものである。したがって、我が国の身分法秩序を定めた民法
は、同法に定める場合に限って実親子関係を認め、それ以外の場合は実親子関係の成立を認めない趣旨であると解すべきである。以上からすれば、民法が実親子関係を認めていない者の間にその成立を認める内容の外国裁判所の裁判は、我が国の法秩序の基本原則ないし基本理念と相いれないものであり、民訴法118条3号にいう公の秩序に反するといわなければならない。このことは、立法政策としては現行民法の定める場合以外にも実親子関係の成立を認める余地があるとしても変わるものではない。
(2) 我が国の民法上、母とその嫡出子との間の母子関係の成立について直接明記した規定はないが、民法は、懐胎し出産した女性が出生した子の母であり、母子関係は懐胎、出産という客観的な事実により当然に成立することを前提とした規定を設けている(民法772条1項参照)。また、母とその非嫡出子との間の母子関係についても、同様に、母子関係は出産という客観的な事実により当然に成立すると解されてきた(最高裁昭和35年(オ)第1189号同37年4月27日第二小法廷判決・民集16巻7号1247頁参照)。
 民法の実親子に関する現行法制は、血縁上の親子関係を基礎に置くものであるが、民法が、出産という事実により当然に法的な母子関係が成立するものとしているのは、その制定当時においては懐胎し出産した女性は遺伝的にも例外なく出生した子とのつながりがあるという事情が存在し、その上で出産という客観的かつ外形上明らかな事実をとらえて母子関係の成立を認めることにしたものであり、かつ、出産と同時に出生した子と子を出産した女性との間に母子関係を早期に一義的に確定させることが子の福祉にかなうということもその理由となっていたものと解される。
 民法の母子関係の成立に関する定めや上記判例は、民法の制定時期や判決の言渡しの時期からみると、女性が自らの卵子により懐胎し出産することが当然の前提となっていることが明らかであるが、現在では、生殖補助医療技術を用いた人工生殖は、自然生殖の過程の一部を代替するものにとどまらず、およそ自然生殖では不可能な懐胎も可能にするまでになっており、女性が自己以外の女性の卵子を用いた生殖補助医療により子を懐胎し出産することも可能になっている。そこで、子を懐胎し出産した女性とその子に係る卵子を提供した女性とが異なる場合についても、現行民法の解釈として、出生した子とその子を懐胎し出産した女性との間に出産により当然に母子関係が成立することとなるのかが問題となる。この点について検討すると、民法には、出生した子を懐胎、出産していない女性をもってその子の母とすべき趣旨をうかがわせる規定は見当たらず、このような場合における法律関係を定める規定がないことは、同法制定当時そのような事態が想定されなかったことによるものではあるが、前記のとおり実親子関係が公益及び子の福祉に深くかかわるものであり、一義的に明確な基準によって一律に決せられるべきであることにかんがみると、現行民法の解釈としては、出生した子を懐胎し出産した女性をその子の母と解さざるを得ず、その子を懐胎、出産していない女性との間には、その女性が卵子を提供した場合であっても、母子関係の成立を認めることはできない。
 もっとも、女性が自己の卵子により遺伝的なつながりのある子を持ちたいという強い気持ちから、本件のように自己以外の女性に自己の卵子を用いた生殖補助医療により子を懐胎し出産することを依頼し、これにより子が出生する、いわゆる代理出産が行われていることは公知の事実になっているといえる。このように、現実に代理出産という民法の想定していない事態が生じており、今後もそのような事態が引き続き生じ得ることが予想される以上、代理出産については法制度としてどう取り扱うかが改めて検討されるべき状況にある。この問題に関しては、医学的な観点からの問題、関係者間に生ずることが予想される問題、生まれてくる子の福祉などの諸問題につき、遺伝的なつながりのある子を持ちたいとする真しな希望及び他の女性に出産を依頼することについての社会一般の倫理的感情を踏まえて、医療法制、親子法制の両面にわたる検討が必要になると考えられ、立法による速やかな対応が強く望まれるところである。
(3) 以上によれば、本件裁判は、我が国における身分法秩序を定めた民法が実親子関係の成立を認めていない者の間にその成立を認める内容のものであって、現在の我が国の身分法秩序の基本原則ないし基本理念と相いれないものといわざるを得ず、民訴法118条3号にいう公の秩序に反することになるので、我が国においてその効力を有しないものといわなければならない。
 そして、相手方らと本件子らとの間の嫡出親子関係の成立については、相手方らの本国法である日本法が準拠法となるところ(法の適用に関する通則法28条1項)、日本民法の解釈上、相手方X2 と本件子らとの間には母子関係は認められず、相手方らと本件子らとの間に嫡出親子関係があるとはいえない。
(4) 原審の前記判断には、裁判に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反があり、原決定は破棄を免れない。論旨は理由がある。そして、相手方らの申立てを却下した原々決定は正当であるから、これに対する相手方らの抗告を棄却することとする。
 よって、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり決定する。なお、裁判官津野修、同古田佑紀の補足意見、裁判官今井功の補足意見がある。

 


裁判官津野修、同古田佑紀の補足意見は、次のとおりである。
 本件において、Aを代理母として出生した本件子らに対し相手方夫妻が親としての愛情を注ぎその養育に当たっていることについては、疑問の余地はない。
 しかしながら、本件に関する民法等の解釈をするに当たっては、本件のみにとどまらず、卵子を提供した女性と懐胎、出産した女性とが異なる場合の親子関係すべてに共通する問題として考察する必要がある。
 母子関係は人の最も基本的な関係の一つであるとともに、子にとっては自らのアイデンティティにかかわる根源的な問題であるが、現行民法上、このような場合における出生した子と懐胎、出産した女性及び卵子を提供した女性との間の法的な関係については、何ら特別の規定が置かれていない。
 代理出産が行われている国においては、代理出産した女性が自ら懐胎、出産した子に対して母親としての愛情を抱き、その引渡しを拒絶したり、反対に依頼者が引取りを拒絶するなど、様々な問題が発生しているという現実もあるところ、このような問題が発生した場合、懐胎、出産した女性、卵子を提供した女性及び子との間の関係が法律上明確に定められていなければ、子の地位が不安定になり、また、関係者の間の紛争を招くことともなって、子の福祉を著しく害することとなるおそれがある。
 また、代理出産を一定の場合に認めるとするのであれば、出生する子の福祉や親子関係の公益性、代理出産する女性の保護などの観点から、代理出産契約が有効と認められるための明確な要件が定められる必要がある。さらに、その要件を満たしていることが代理出産を依頼した女性との実親子関係を認めるための要件となるとすれば、実親子関係の有無の判断が個別の事案ごとにされる代理出産契約の有効性についての判断に左右されることになり、実親子関係を不安定にすることになるばかりでなく、客観的には同様の経過を経て出生する子の間で、ある者は実子と認められ、ある者は実子と認められないという結果を生ずることも考慮しなければならない。
 そうすると、本件のように、代理出産によらなければ自己の卵子による遺伝的なつながりのある子を持つことができないという特別の事情については十分理解できるし、また、生まれてきた子の福祉は極めて重要であり、十分に考慮されなければならないところではあるが、代理出産に伴って生じ得る様々な問題について何ら法制度が整備されていない状況の下では、子を懐胎、出産し、新しい生命を現に誕生させた女性を母とする原則を変更して、卵子を提供した女性を母とすることにはちゅうちょを感じざるを得ない。
 生殖補助医療の発達によって今後も同様の問題が生ずることが予想されることから、代理出産やそれに伴う親子関係等の問題については、法廷意見の指摘する様々な問題点について検討をした上、早急に立法による対応がなされることを強く望みたい。
 諸外国の事情をみても、米国の一部の州やイギリスでは代理出産が認められているが、その中でも、出産した女性を母とした上で、依頼した夫婦を親とする措置を出生後にとることとしているものと、出生時から依頼した者を親とするものとがあり、また、代理出産契約を有効とする要件についても所によって異なる。一方、ドイツ、フランスや米国の一部の州などにおいては、代理出産がおよそ禁止されているとともに、代理出産による子があった場合でも出産した女性を母とすることとされているが、その子と依頼者との間で養子縁組を認めるものと養子縁組も認めないものとがあるなど、代理出産に関しては、それぞれの国の国情を踏まえ、多様に法制が分かれている。このことは、代理出産に関しては、様々な面において考え方が多様に分かれるものであることを示しているといえ、立法による対応が強く望まれ
るゆえんである。
 なお、本件において、相手方らが本件子らを自らの子として養育したいという希望は尊重されるべきであり、そのためには法的に親子関係が成立することが重要なところ、現行法においても、Aらが、自らが親として養育する意思がなく、相手方らを親とすることに同意する旨を、外国の裁判所ではあっても裁判所に対し明確に表明しているなどの事情を考慮すれば、特別養子縁組を成立させる余地は十分にあると考える。


裁判官今井功の補足意見は、次のとおりである。
 私は、相手方らと本件子らとの間に嫡出親子関係が成立しないとの法廷意見に賛成するものであるが、本件のような民法の想定しない事態についての親子関係に関する問題の解決について、私の考えを述べておきたい。
 本件で直接問われているのは、相手方らと本件子らとの間に実親子関係を認めた外国の裁判が我が国において効力を有するかという問題であるが、法廷意見のとおり、親子関係のように我が国の身分法秩序の根幹をなす基本原則ないし基本理念に関する事柄については、我が民法の解釈として容認されない内容の外国の裁判は、民訴法118条3号の公序良俗に反するものとして、我が国においてその効力を認められないのであるから、結局は、我が民法において代理出産により出生した子の母子関係はどのように解釈すべきかという問題に帰着することになる。
 医学の進歩は著しく、生殖補助医療の分野においても、様々な新しい技術が開発され、実施されている。これらの技術の進歩により、これまで子を持つことができなかった夫婦や男女が子を持つことが可能になったが、これに伴い、従来では想定されなかった様々な法律問題が生じている。精子提供者が死亡した後に実施された凍結精子を用いた体外受精による精子提供者と子との間の父子関係の成否の問題がその一つであり(最高裁平成16年(受)第1748号同18年9月4日第二小法廷判決・民集60巻7号2563頁)、本件の代理出産の問題もその一つである。
 このような技術の進歩に伴って生ずる身分法上の問題については、民法の制定当時には、想定されていなかったのであるから、それに関し民法が規定を設けていないことはいうまでもない。この場合に、民法が規定を設けていないからといって、そのことだけで直ちにこれを否定することは相当ではない。問題となった法律関係の内容に照らし、現行法の解釈として認められるものについては、身分関係を認めることは裁判所のなすべき責務である。
 しかし、身分関係、中でも実親子関係の成否は、法廷意見の述べるように、社会生活上の関係の基礎となるものであって、身分法秩序の根幹をなす基本原則ないし基本理念にかかわる問題である。具体的な事案の中で、関係当事者の権利利益を保護すべきか否かという側面からの考察のみではなく、そのような関係を法的に認めることが、我が国の身分法秩序等にどのような影響を及ぼすかについての考察をしなければならない。
 本件においては、相手方らは本件子らと血縁関係を有すること、相手方らの遺伝子を受け継ぐ子を得るためには他の方法がなかったこと、本件代理出産契約はその動機目的において不当な要素をうかがうことができず、その内容においても代理出産した女性の尊厳を侵害する要素を見出すことはできないこと、代理出産した女性及びその夫は本件子らを自らの子とすることは望まず、相手方らは本件子らを実子として養育することを強く望んでいること等原審の認定する事実関係によれば、本件子らの福祉という点から考えれば、あるいは、本件子らと相手方らとの間の法的な実親子関係を認めることがその福祉にかなうということができるかもしれない。
 しかし、ことは、それほど単純ではない。本件のような場合に実親子関係を法的に認めることの我が国の身分法秩序等に及ぼす影響をも視野に入れた考察をしなければならない。代理出産に関しては、生命倫理や医療の倫理として許容されるか、許容されるとしてもどのような条件が必要かについて多様な意見があり、また、出生した子やその子を懐胎出産した女性、卵子を提供した女性その他の関係者の間の法律関係をどのように規整するかについても、議論のあり得るところである。本件において、現行法の解釈として相手方らと本件子らとの間の実親子関係を法的に認め
ることは、現段階においては、医学界においても、その実施の当否について議論があり、否定的な意見も多い代理出産を結果的に追認することになるほか、関係者の間に未解決の法律問題を残すことになり、そのような結果を招来することには、大いに疑問がある。
 この問題の解決のためには、医療法制、親子法制の面から多角的な観点にわたる検討を踏まえた法の整備が必要である。すなわち、医療法制上、代理出産が是認されるのか、是認されるとすればどのような条件が満たされる必要があるのか、という問題について検討が必要であり、親子法制の面では、医療法制面の検討を前提とした上、出生した子、その子を懐胎し出産した女性、卵子を提供した女性、これらの女性の配偶者等の関係者間の法律関係をどのように規整するかについて、十分な検討が行われ、これを踏まえた法整備が必要である。この問題に関係する者の正当な権利利益の保護、子の福祉といった問題もこのような法制度の整備により初めて、公平公正に解決されるということができる。
 関係者が多く、多様な関係者の間に様々な意見が存在することから、妥当な合意を得ることは、必ずしも容易ではないとは考えるが、困難であるからといって、これを放置することは、既成事実が積み重ねられる結果となり、出生してくる子の福祉にとっても決して良い結果をもたらさないことは明らかである。医学の進歩がもたらす恩恵を多くの者が安心して享受できるようにするためにも、できるだけ早く、社会的な合意に向けた努力をし、これに基づいた立法がされることが望まれるゆえんである。
 なお、本件子らと相手方らとの間に特別養子縁組を成立させる余地は十分にあるとする点においては、津野修裁判官、古田佑紀裁判官の補足意見のとおりと考える。


(裁判長裁判官 古田佑紀 裁判官 津野 修 裁判官 今井 功 裁判官中川了滋)